研究概要 |
本研究は,近い将来の人口老齢化問題の一助になることを意識したもので,歯,人工歯ならびに歯科修復部分に高い撥水・撥油性を付与させるためのフッ素系シランカップリング剤を開発し,口腔内の衛生面向上を計ることを目的としている。平成5年度は数種類のフッ化炭素鎖を有するシランカップリング剤を合成し,キャラクタリゼーションした。さらに,ガラス板表面の改質条件、たとえば使用溶剤、濃度、処理温度、処理時間、さらに表面にシロキサンネットワークを形成させるための熱処理温度、熱処理時間などについても追究し、最適条件を見出した。AFM測定から,得られた改質表面は無色透明な2〜3層の厚さからなるシランカップリング剤層であることを明らかにした。数十Åという薄膜にもかかわらず,改質表面は極めて高い撥水撥油性を発現するばかりでなく,熱濃硝酸,熱濃塩酸にも耐える被膜で覆われることが明らかになった。 平成6年度は開発したフッ素系シランカップリング剤のうち,最も高い撥水撥油性を示した化合物,C_<10>F_<21>C_2H_4Si(OCH_3)_3を用いて歯科修復用材料あるいは人歯の表面を改質したところ,ガラス表面と同様に高い撥水撥油性を付与することが確認された。表面改質された2種類の歯科修復用材料の紅茶液およびオイルオレンジによる色素の沈着と沈着表面の超音波による色素脱離テストを色差値ならびに接触角により調べ,色素の沈着性は小さく,脱離性は高いことが分かった。また,改質したガラスおよびコンポジットレジン(Z100;3M)を滅菌後,in vitroにて細菌性プラーク(Streptococcus mutans Ingbritt)懸濁液中に懸吊し,24時間嫌気培養した。この試料の超音波発生装置内でのプラーク脱離量を超音波照射の出力と時間を種々変えて調べた。改質試料では200W/60秒の照射で細菌の残存付着は極めて少なく,未改質試料に較べて1/1000程度(電子顕微鏡測定)であり,本フッ素系シランカップリング剤の有効性が確認された。
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