研究概要 |
光学活性化合物の合成に微生物や酵素などの不斉認識能を利用する手法が注目を浴びており、化学的手法では困難な特異的な不斉反応が見いだされている。トリフルオロメチルケトン類のパン酵母還元は単純な構造のケトンについては行われており、脂肪族ケトンでは高い光学純度で相当する2級アルコールが得られているが、芳香族トリフルオロメチルケトンの場合には低光学純度でしか対応するアルコールが得られておらず基質特異性の限界を示している。本研究ではパラ位に各種の置換基を有するα,α,α-トリフルオロアセトフェノン誘導体のパン酵母還元を行なったところそれぞれ高い光学純度及び収率で対応するアルコールを得ることができ、これらのアルコールは再結晶を行なうことにより光学的に純粋な形で単離できることを見いだした。即ちビス-p-トリフルオロアセチルベンゼンのパン酵母還元ではサッカロース存在下、両方のケトンが同時に還元されたが光学純度96%eeで得られ、ビス-p-トリフルオロアセチルベンゼンの一方のカルボニル基を1,3-ジチオランの形で保護した化合物を用いてパン酵母還元をおこなうと、モノベンジルアルコールを96%eeの光学純度で得ることができた。トリフルオロアセチル安息香酸あるいはそのメチルエステルの場合はサッカロースを用いずにパン酵母のみで還元を行なった場合、光学純度90-91%eeでベンジルアルコールが得られた。フェノールあるいはアニリン誘導体の場合は酸素および窒素原子上の置換基の効果が大きく、電子求引性の置換基を有する誘導体を用いた場合高い光学純度でパン酵母還元生成物を得ることができた。以上のように本研究ではトリフルオロアセトフェノンのパラ位に種々の官能基を導入した基質を用いる事により基質特異性の問題を解決し、高い光学純度でR体のアルコールが得られることを明らかにした。
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