高分子固体をあるしきい値以上のエキシマーレーザー出力で照射すると、分解飛散し、サブマイクロメートルの深さの穴があく。この現象はレーザー爆蝕と呼ばれ、高密度励起光化学過程として、また微細加工の手法の一つとして注目されている。この過程を分子レベルで解明することを目的に、ナノ秒時間分解過渡吸収分光、干渉画像計測、飛行時間型質量分析計で測定、解析し以下のような新しい知見を得た。 (1)爆蝕しきい値以下でも高分子は数10ナノ秒でマイクロメートル程度の厚さだけ膨張し、ミリ秒から秒の時間で元にもどる。時間分解測定して初めて観測される変化である。 (2)爆蝕しきい値以下で膨張収縮する際、ドープした芳香種分子は分解することなく、かなりの速度をもって放出される。すぐ上に高分子フィルムを対置すると、この分子は効率よく注入される。分子と共通の溶媒がない高分子にも適用できる分子ドープ法として広く適用可能である。 (3)光励起状態や反応中間体が消失してしまう時間が速ければ、基底状態の吸収の長波長側にホットバンドが検出される。このホットバンドの生成消滅過程の解析より、高分子固体が数10ナノ秒以内に数100度に達し、数マイクロ秒で室温に戻ることが明かとなった。 (4)レーザーパルスの透過率の時間変化の測定より、爆蝕は1ヶのドープ分子が10ヶ以上の光子を吸収することが示された。 (5)光分解や光イオン化に伴う中間体は観察されず、励起一重項および三重項状態のみが分光学的に検出された。これら励起状態がレーザーパルスを吸収し、高い励起状態へ上がり、数ピコ秒で元にもどり、これがパルス幅で繰り返され昇温をもたらし熱分解するという新しいメカニズムを提案した。
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