研究概要 |
浮稲は主として節間を伸長させることで深水に対応している.この急激な節間伸長の開始と同時に,光合成産物のシンクとソースのバランスを個体の生長に有利になるように変化させていくことが必要になる.本研究では,深水下における同化産物の転流と分配のの変化を明らかにするため,特定の葉に供与した安定同位体炭素の部位別の経時的変化と数種の転流関連の酵素活性を調べた.また,浮稲の節間伸長の機構を探る目的で,明暗両条件下での深水による節間空隙内のガス組成の変化を調べた. 5時間の同化期間中にラベルされた炭素は供与した葉と最上位の伸長中の葉に最も多く分布するが,深水下の24時間後には伸長し始めた最上位の節間部に多く分配された.また,これらの部位のシュクロース/デンプン比が深水下で大きくなり,葉のシュクロースホスフェイトシンターゼ活性と伸長中の節間を含む茎部のシュクロースシンターゼ活性も深水により増加した.これらの結果から,深水下の浮稲において,シンクである伸長中の節間の同化産物の要求量が高まると同時にソースである葉身のシュクロース形成率が高くなり,同化産物の転流が増大するものと考えられた. 浮稲茎切片を用いて明暗両条件下で深水処理した結果,明条件下では節間伸長するが暗条件下では伸長しなかった.明条件下では酸素と二酸化炭素濃度はほとんど変化せず,エチレン濃度は顕著に上昇した.暗条件下では酸素濃度が低下し,二酸化炭素とエチレン濃度は上昇した.また,暗条件下で酸素を供給すると節間の伸長が認められた.以上の結果から,従来から考えられてきた節間空隙内のエチレン濃度の上昇に酸素濃度の低下は必要なく,むしろ旺盛な節間伸長には多量の酸素の供給が不可欠であることを明らかにした.
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