研究概要 |
小麦における地上部と地下部の生長相関を明らかにする一環として,小麦農林61号(軟質粒種)の個体当たりの冠根数を段階的に制限して栽培し,地上部および地下部根系の生育反応と形態構造に及ぼす影響を解析した。その際,登熟期の根系の役割に着目して粒質の変化との関連を検討した.その結果,(1)地上部は,冠根数を極端に制限して種子根1本で栽培しても,通常とほぼ同様の生育を示すことが明らかとなった.(2)冠根数が制限されると,個々の種子根は根長,分枝根数および分枝根長を増大させた.その場合,諸形質の増大は高次根ほど顕著であった。(3)地上部と地下部の関係をみると,冠根数制限に伴ってT/R比を高めたが,葉面積/総根長比には変化が認められなかった.(4)冠根数制限を行った場合,単位葉面積当たりの蒸散量は減少を示した.また,土壌乾燥に対する光合成速度の低下程度は小さかった.(5)収量形質については冠根数制限によって有効穂数がやや少なくなったが,1穂の形質では差異が認められなかった.(6)また,穀粒は硝子質の割合が高まる傾向を示した.同時に,湿ぷ率,粗蛋白質率も増大した。一方,登熟期に土壌水分含量を高めた場合,硝子質化の程度は低下した.(7)以上のことから,小麦個体は,冠根数制限に伴って分枝根を補償的に発育させて根系機能を維持するとともに地上部地下部の形態および生理的なバランスを乾生的なものに変化させることが示唆された.しかし,登熟期には水ストレスが生じ易くなり,粒質が硬質粒化するものと考えられた.
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