研究概要 |
我々は、Alternaria solaniの生産する宿主特異的毒素アルタナリック酸は、ジャガイモ細胞のポンプ依存性の膜電位(Ψp)を低下させ,過敏感細胞死を抑制することによって宿主への感染成立に重要な役割を果たしていることを報告した(1992)。今回は、アルタナリック酸およびアルタナリック酸の誘導体3種、および疫病菌サプレッサー、エリシター、H_2O_2およびサリチル酸のジャガイモ細胞膜[H^+]ATPaseに対する影響を検討した。その結果アルタナリック酸,10-deoxyalternaric acid,および10-deoxy-6,19-dihydro-alternaric acid (10μM)は、ATPaseの活性を60%阻害した。しかし、10-deoxy-6,8,9,19-tetrahydroalternaric acid (20μM)は、ATPase活性を139%に高めた。一方、サプレッサー(125μg/ml)は、42-45%活性を阻害し、H_2O_2(25μM),サリチル酸(25μM)も、それぞれ45-68%、32%活性を阻害した。以上の結果から、植物のシグナル分子もATPase活性を阻害することによって過敏感反応の制御に関与していると推察された。in vitroでの、ジャガイモ2品種の細胞膜キナーゼに対する病原性因子サプレーッサー、エリシター、アルタナル酸等の影響を検討した。その結果、抵抗性のエニワの細胞膜に対してレースOのサプレッサーグルカン(100μg/ml)を処理すると、10分後までは活性が120%に上昇し、その後90%まで急激に低下した。また、エリシター(100μg/ml)を処理した場合は、活性が5分まで上昇し、その後急激に低下し30分後では90%になった。 これらの結果から、抵抗性品種エニワとり病性品種ダンシャクでは、細胞膜情報伝達系における細胞膜プロテインキナーゼの機能が異なっている。また、宿主の異物識別機構において細胞膜キナーゼは、特異性の発現を制御する重要な酵素であると考えられる。
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