研究概要 |
リグナンの生合成は不明である。カラスザンショウのフロフラン型リグナン類〔例えば(-)-ピノレジノール〕の絶対配置は(8S,8'S)であるが、これらの生合成研究例はない。また、その(-)-セコイソラリシレジノールの立体配置は逆に(8R,8'R)であり興味深い。これらのリグナンの生合成を解明するためにカラスザンショウ、イヌザンショウの若枝を用いて、取り込み実験と粗酵素実験を行い、以下の成果を得た。(1)リグナン類と〔8-^<14>C〕コニフェリルアルコール(CA)を合成して標品・基質として用いた。(2)種々のHPLC分析条件を確立した。(3)両植物の若枝の切断面に〔8-^<14>C〕CAを投与したところ、〔^<14>C〕は茎と葉のピノレジノールに取り込まれたが、エピピノレジノール、セサミン、アサリニンには取り込まれなかった。セコイソラリシレジノールとラリシレジノールについては検討中である。(4)無細胞推出液と〔8-^<14>C〕CAをNADPH/H_20_2の存在下で、また、それと(±)-ピノレジノールをNADPH存在下でインキュベートすると、いずれも(+)-ラリシレジノールが得られた。これはCAから生じた(±)-ピノレジノールの(+)体の一部が酵素的に(+)-ラリシレジノールに還元されたことを示す。この立体配置は(8R,8'R)であり、(-)-セコイソラリシレジノールのそれに対応するが、セコイソラリシレジノールを生成する酵素活性は得られていなく、この点は今後の課題である。残りのピノレジノールは天然の符号と同じ(-)体である。(5)可溶性の酵素を除いた不溶性残さを〔8-^4C〕CAと補因子なしでインキュベートすると、ほぼラセミ体のピノレジノールが生成した。NAD/リンゴ酸を添加して生じたピノレジノールは(-)/(+)=53.5:46.5でわずかに(-)体が多かった。不溶性残さ中に存在する細胞壁結合型ラッカーゼが、溶存酸素を用いて(±)-ピノレジノールを与えたと推定される。しかし、(-)-ピノレジノールが有意に多いとは断定できず、それを選択的に与える酵素については今後さらに検討する必要がある。
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