研究概要 |
干拓事業で失われる予定の水域における幼稚魚成育実態を明らかにすることを目的に、1993年3月から12月に長崎県諌早湾に注ぐ本明川の河口で稚魚網による採集と塩分、水温と流速の観測を行った。採集結果は、河口域を潮流とともに流下する稚魚数として計数するとともに、稚魚網でろ過した水塊の満潮時における位置を流速から逆算、感潮域における仔稚魚類の地域分布を推定した。さらに、最も多く採集されたコイチについて胃内容を調べ、プランクトンの組成との比較から、餌料の面からの仔稚魚類の水域利用形態を明らかにした。 調査期間の現場の水温は、6.4-27.1℃であった。塩分は、0-23.9‰の間で変化したが、特に6-8月の間で満潮時でも14.6‰以下と低い値を示した。このような環境の中で、3月から12月に12科29種、16,379尾の稚魚が採集された。このうち、ハゼ科魚類が17種、9,364尾で、57%を占めた。特に個体数が多かったのはコノシロ、コイチ、ハゼクチ、ショウキハゼ、シモフリシマハゼとワラスボで、この6種で全体の85%を占めた。有明海特産魚8種のうち、ハゼクチ、ワラスボ、ムツゴロウ、ヤマノカミの4種が幼期にこの水域に生息することが分かった。 多くが河口域外で産卵され、幼期に来遊するものであったが、出現状況から、様々ん河口域利用形態であることが分かった。コイチは、来遊当初から感潮域の広い範囲に分散し、比較的短い期間過ごして域外に出るので、河口域では、狭い体長範囲の個体のみが存在する。ハゼクチは、河口からしだいに上流へ分布を広げ、成長にともない上流側に片寄って分布するようになる。特に長期間多くの個体が採集されたコイチとショウキハゼについて環境の塩分と採集個体数との関連をみたところ、0-23‰の範囲で相関は認められず、幼期に塩分耐性の広い魚類がこの水域を成育場として利用することが分かった。
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