研究概要 |
自然に近い条件下での化学感覚器の働きを知るため,数種の淡水魚および海水魚について背景濃度を種々変えた条件下でアミノ酸の濃度変化に対する嗅覚器および味覚器の応答性を電気生理学的に比較した。 1.魚類の嗅覚と味覚に及ぼす自己順応の影響 淡水魚としてニジマスおよびイワナ,海水魚としてアイナメを供試魚とした。アミノ酸に対する嗅覚応答は背景濃度が増加すると減少する傾向があるものの,嗅覚器は順応しにくく,背景濃度の1割程度のわずかな濃度増加も感知可能と考えられた。セリンに対するイワナの嗅覚応答において刺激濃度と背景濃度との比(濃度変化の大きさの指標)-応答曲線は背景濃度の増加とともに左上に移動したことから濃度変化の検出能力が背景濃度の増加とともに増大するものと判断された。一方,アミノ酸に対する味覚応答は背景濃度が増加すると急激に減少し,背景濃度の10倍程度の濃度増加では応答はみられなかった。しかしプロリン,塩酸キニ-ネ,胆汁酸に対する味覚応答において濃度変化の検出能力はプロリンでは背景濃度が増加すると急激に減少するが,塩酸キニ-ネ,胆汁酸では背景濃度の影響をうけにくいものと判断され,順応の影響も味物質によって異なることがわかった。 2.ニジマス嗅球誘起脳波の周波数分析 アミノ酸刺激による誘起脳波のピーク周波数は,背景濃度が零の場合,刺激濃度の増加に伴い,やや低い周波数に移行した。自己順応時には,このピーク周波数の移行は背景濃度に影響された。交差順応時には,順応前に比較して,ピーク周波数のパワーが変化したり,しなかったり,またピーク周波数が移行したりした。ニジマス嗅覚器は嗅覚刺激の強弱のみならず,質も感知可能であると推察された。嗅球誘起脳波の周波数分析が嗅覚解析の有効な手段であることが示された。
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