研究概要 |
本研究は、東南アジアにおける小規模家族経営の発展方向を実証的データによって検討し、一層の農業発展に資することを目的とした。とくに技術革新、制度革新の実態分析に加えて、個別経営の経営革新の必要性と可能性を解明することを狙った。研究成果は次の諸点に要約できる。1.近年の経済発展は伝統的農業生産に対し,土地・労働・資本の機会費用の高騰という影響を与えている。その結果,非農業的土地利用の拡大,農業労働力の流出,農業投資の純化など農業持続性に関する深刻な問題が生じている。農家の経営対応としては,稲作の集約化および水田利用の多様化・高度化が一般的であるが,食料需要の多様化にともなって、より収益性の高い野菜・果実・畜産などの生産拡大も進んでいる。2.水田利用の多様化は多くの国で国策として推進されているが,土地基盤,技術開発・善及,資材・生産物流通制度において多くの問題がある。諸制度が整備された先進的稲作地帯で水田利用の多様化が進み,稲作生産基盤の不備な地域では農業衰退現象が生じてきている。インフラのみならず技術的経済的な条件整備がなされなければ、作目を問わず、自立可能な経営展開が困難であるといえる。3.野菜生産の急激な拡大は冷涼な気候を有する高原地帯で顕著である。しかし、畑作農業基盤の整備は稲作より遅れている。無差別的な農地造成や化学的投入財への依存は,土壌流亡,洪水,食品の安全性,農民の健康などに関する深刻な環境問題を生じつつある。いずれも所得の向上を目指す家族経営の展開の諸相である。総括的には,土地所有・利用規制・技術・制度革新の推進,流通制度の改善などを総合的に進め,自立経営の確立を図ることが重要である。個別経営の自立化が達成できなければ,農業の持続的発展を期待することは不可能であると考えられた。
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