研究概要 |
現在、乾燥地域においては大規模灌漑農業が行われているが一方では土壌の塩害化により広大な農耕地の放棄が進んでいる。このような塩害化した農耕地での作物栽培を可能にするには、塩生植物の活用しか方法が見だせないのが現状である。しかし、その基礎的研究は緒についたばかりであることから比較的塩環境下においても生育の良いアブラナ科野菜を用いてその塩環境下での生育と植物の生理的応答の機構について検討した。 1)方法:約150種の野菜類を中心に塩環境下(0ppm.300ppm,1000ppm,3000ppm,10,000ppm)での初期生育を検討した。その結果、特に上記条件下での生育の旺盛な7種を用いて栽培を行なった。栽培は、自然光ガラス温室で行った。栽培後の各植物体は精秤後、蒸留水とともにホモジナイズした。このホモジナイズ調製液の各種無機イオン、糖類および有機酸の同定と定量分布を行なった。 2)結果:7種共に1000〜3000ppm NaCl濃度においても対照区と同程度の収量を示した。植物内に取り込まれ蓄積されたイオン類は、栽培液中のNaCl濃度上昇にともないNa^+イオン及びCl^-イオンの吸収が増加し植物体内への蓄積濃度も増加していた。植物体内のNa/K比は、栽培液中のNaCl濃度上昇とともにその値も上昇した。浸透圧調節に関連している主な有機酸類は、シュウ酸とリンゴ酸が認められその濃度は植物体に分布したNaCl濃度との相関関係が認められたことからこれらの有機酸類が過剰に取り込まれたカチオン類と塩を形成中和し浸透圧調節していることが推察された。また、浸透圧調節に関わるとされる糖類も栽培環境の塩濃度上昇と共にその単糖類(ブドウ糖、果糖)また、ショ糖の濃度も上昇していた。植物細胞内での過剰吸収カチオン類への対応機構としてこれら糖類と有機酸類の生合成を促進しすることにより、供試した7種の野菜が塩環境下でも良い生育を示したことが推察された。
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