研究概要 |
炭酸ガス麻酔豚(Gと略記)の筋肉はPSE発生率が極めて低い原因究明を目的として本研究を実施した。デンマーク,ブチナ社のガス麻酔装置(80%CO_2,75秒間吸入)では,豚の装置への追込みに電気ムチを使用するので,ストレス負荷が大であるため,アドレナリンが高レベルで血中分泌されるにもかかわらず,PSEは殆ど発生しない。そこでと殺後のG筋肉と電殺豚(Eと略記;180V,10秒)筋肉のpHを経時的に測定比較したところ,E筋肉は生体pHから一方的に低下し24時間後には極限pH(5.5)まで低下するのに対して,G筋肉はと殺直後(30分)では低く(pH_< 0.5>6.2),以後3時間まではやや上昇(pH_36.7)し,以後は徐々に低下した。G筋肉のと殺初期の低pHは炭酸イオン濃度の測定結果がE筋肉の4倍近い値であって明らかに呼吸性アシドーシスによるものであり,以後は炭酸脱水酵素作用や溶解度の関係で低下するためpHが上昇する。初期の低pHは筋肉細胞内アデニル酸シクラーゼ活性を抑制するためcAMPの生成も抑制される結果グリコ-ゲノリシスの進行が遅れ,従って乳酸生成も遅滞しているが,pHが上昇すると活性化し,3時間以後はE筋肉同様代謝性(乳酸)アシドーシスが進行して極限pHまで低下する。一般にPSE異常肉の発生原因は,と殺時,豚へのストレス負荷が大きいと,と殺後初期のと体温度が高い間に代謝性アシドーシスが促進されて短時間内に多量の乳酸が生成し,筋肉のpHが極限pHまたはそれ以下にまで急低下するが,そのために筋肉の収縮性および調節性蛋白質が変性することが原因であるとされている。これに対してGではと殺後の初期pHはむしろ低く,代謝性アシドーシスの進行が抑制されているためPSE発生が抑制されると考えられる。さらにこの事実は,アドレナリンのβ_2-受容体遮断剤ブトクサミンを投与後,と殺したラット筋肉では完全に乳酸生成が抑制されたことから,Gの死後変化の初期段階における低pHに起因するグリコ-ゲノリシスの抑制がGにおけるPSE発生抑制の機構であると結論された。
|