研究概要 |
家畜の福祉の観点から,近年,西欧諸国では繁殖豚の個別飼育に代わる管理システムとして,豚の群飼飼育の研究に力を注いでいる。このシステムでは,豚の行動の制約を緩和することが可能となり,ケージ飼育に比べて,ストレスの低下や疾病の減少することが認められている。しかしながら,豚を群飼しながらも個体給餌管理を行なうには,コンピュータの導入が必須条件となる。本研究者らは3年前から支部省科学研究費を受け,豚の福祉と省力化を両立させることを目的とし,このシステムにコンピュータ個体自動給餌機を導入して研究を行なっている。ところが,群内における各個体の識別のために豚の首に取り付けたトランスポンダ(首輪状)のサイズが大きく,それが脱落したり,突起物にひっかかったりする問題が多発した。また,豚の成長過程や繁殖サイクルの進行にともなって,豚の首の太さも変化するため,首輪のサイズをそのつど調節しなければならないという問題も認められた。そこで,本研究者らは,首輪型に代わるトランスポンダの適用を試みた。2種類のタイプが,代替トランスポンダの候補としてあげられ,それらについて検討がなされた。一つは,アンテナとシリコン・チップを生物用ガラスで包含した筒型トランスポンダで,その長さも約2.5cmと小型である。しかし,このタイプではトランスポンダを豚の体内に埋設しなければならないため,出荷に際しての回収が難しい上に,屠場でも問題となることが判明した。また単価も高く現時点では実用性に乏しいと考えられた。もう一つの候補としてサイズ3x3cmの正方形型の耳刻式トランスポンダが試みられた。このタイプは体内に埋設する必要がないため回収も容易で屠場での問題もないことが認められた。しかしながら,行動学的調査によると,群内で互いの耳刻に対する咬みつきの多発が示唆されたため,今後,さらに研究を進め,豚の習性に適したトランスポンダを開発することが必要であると考えられた。
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