研究概要 |
卵子を耐凍剤液に導入し,その直後から体積の変化を測定する方法を考案した。PB1液中の卵子をマイクロマニピュレーターのホールディングピペットに保定し,カバーピペットを用いて、耐凍剤液へ導入した。耐凍剤液は、1.5M‐Acetamide(AA),あるいは10〜20%(v/v)のEthyleneglycol(EG),Glycerol(GL),Propylene glycol(PG),またはDimethylsulfoxide(DMSO)を含むPB1液とした。卵子の顕微鏡像をタイムラピスビデオに録画し,経時的にプリントした画像から細胞質の相対的面積を測定して卵子の相対的体積を計算し,耐凍剤透過性を比較した。マウス未受精卵の細胞膜透過性はPGが最も高く,次いでDMSO,AA,EGの順で,GL透過性は極めて低かった。いずれの耐凍剤透過性も,温度の上昇と共に高まった。PB1液を蒸留水で薄めた種々の低調液で卵子を処理した結果,未受精卵は受精卵に比べ傷害を受けやすいことが判明した。FicollとSucroseを含む溶液で各耐凍剤を20〜40%に希釈したガラス化溶液でマウス卵子を超低温保存した結果,細胞膜の透過性の低いGLでは全く生存せず,EGでも生存率は低かった。これに対し,20%AAを含む溶液では保存後の生存性(形態)は高く維持された。しかし,AA液では透過性の測定過程に細胞質の異常がみられ毒性の高いことが示唆されたため,溶液の耐凍剤組成を10%AA+10%EGに改変した結果,保存後の正常形態率はさらに高まった。この方法でガラス化保存した卵子を体外受精した結果,受精率は低かったが,透明帯を除去すると高率に受精したことから,細胞質は正常に維持されたと考えられた。屠場の卵巣由来の牛未受精卵を同じ方法でガラス化保存した結果,形態は正常に維持された。しかし,体外受精後の発育率は低かった。以上の結果,未受精卵のガラス化保存には透過性の高い耐凍剤,中でもAAが適しているが,AAは細胞毒性が高く,透明帯に作用して受精を阻害することが示唆された。
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