研究概要 |
本研究課題は小腸上皮細胞におけるゴルジ装置-小胞体相互間の形態的移行の存在とその部の細胞化学的特徴を検討したものである。一般にゴルジ装置を標識するマーカー(ヨウ化亜鉛オスミウム[ZIO]染色、酵素細胞化学的ALPase活性、ALPase,α-mannosidaseIIの免疫細胞化学的反応性等は小腸絨毛基部より上部の吸収上皮細胞のゴルジ装置に染色性を示したが小腸陰窩の未熟な細胞のゴルジ装置には明瞭な染色性を示さず、細胞の分化の程度(成熟度)がこれらの蛋白の発現や機能の発現に関係していることが示された。Inosine diphosphatase(IDPase)活性については陰窩低部から絨毛上部に向かってゴルジ装置に全く反応が見られないもの→ゴルジ装置のtrans側(+)→小胞体(+)→ゴルジ装置の全層(+)の順に段階的に反応産物の拡がりが見られ、細胞の成熟度に伴なうゴルジ装置と小胞体の機能的変化が反映されていた。ゴルジ装置と小胞体相互の移行については未熟な細胞と成熟した細胞においてその形態をやや異にしていた。第一の様式は比較的未熟な細胞における小胞体のtrans Golgi cisternaeへの密着および移行であり、IDPase活性からこの構造を観察すると弱陽性の小胞体が陽性のtranse側ゴルジ装置のcisternaeと連続している部分が認められ、小胞体成分のゴルジ装置への直接的移行が認められた。成熟した細胞の場合は滑面小胞体様の小型の顆粒を含む小管状構造がゴルジ装置cis-mostのメッシュ状cisternaと結合する第2の様式が形態像やZIO染色で確認できた。しかし、この移行部においてはゴルジ装置の固有蛋白であるα-mannosidaseIIと小胞体の固有蛋白(ER proteinsやPDI)の抗原性が弱く、両者のマーカーが混在しているように観察された。以上の研究成果は小胞体とゴルジ装置の区分が大局的には明瞭となっているものの、局所的には非常に密接な関係を示す場合があることを示した点で意義深いと考える。この点は小胞体とゴルジ装置の間の蛋白輸送やゴルジ装置の発生、及び形成という問題に重要な示唆を与えるであろう。
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