研究概要 |
ヒトの掌蹠に見られる皮膚紋理の変異は,種々の先天異常の診断に役立っている。本研究の目的は,実験動物モデルとしてマウス掌蹠の皮膚紋理の標準的な形態とその発生過程を記載し,遺伝的あるいは環境的因子によって,その形態がどのように乱されるかを明らかにすることである。マウス掌蹠には指パッド,指間および手・足根パッド,キャタピラ-パッド,敷石状パッドの4種がみられる。指間パッドは胎生15日にはすでに出現していたが,指パッドは胎生16日に現われた。キャタピラ-パッドと敷石状パッドは胎生17日から18日にかけて出現した。遺伝性四肢奇形マウスであるメロメリアでは,皮膚紋理の観察から,掌側の一部が背側化していることが明らかとなった。肢形成期に発現するShh,Wnt-5a,Wnt-7aなどパターン形成に関係する遺伝子の発現をホモ胚子の肢芽で調べたところ,野性型胚子と差が認めらた。5-フルオロウラッシル,レチノイン酸,アセタゾールアミド,およびメトキシ酢酸は投与時期,投与量に応じて多指,合指,欠指などさまざまな指列異常を誘発したが,皮膚紋理にもこれらに対応した異常が認められた。明らかな指列異常が認められない肢でも,皮膚紋理に異常が見られる場合もあり,皮膚紋理が微小な異常の検出に役立つこと,環境因子の発生毒性検出指標としても有用であることが示された。また,その因子特異性から,皮膚紋理の観察が四肢奇形の発生機序考察にも役立つことが分かった。マウス,ラット,モグラ,ヒミズ,ウサギなどの掌蹠皮膚紋理を比較したところ,パッドが地上での歩行や,ものを掴む,よじ登るなどの行動に適応して進化したことが示唆された。
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