研究概要 |
Na,K-ATPaseは細胞内環境維持のためのイオンポンプとして必要不可欠の酵素である。本酵素はcatalytic subunitであるα subnuitと,未だ機能が完全には明らかではないβ subnuitから構成されている。近年,β subnuitがNa,K-ATPaseの活性発現および細胞内輸送に必須であることを示唆する結果が幾つか報告され,β subunitはERにおいてα subunitとアセンブルし,α subunit機能発現のためのプロセシングおよびその細胞膜への輸送に関与していると考えられている。このような状況を踏まえ以下の研究を行った。 1.ラットNa,K-ATPase β subnuitのN末端半分(β_N)を人工発現しているHeLa細胞を用い,ER内で起こる本酵素のアセンブリ過程でのカルシウムの影響について検討した。ERのCa^<2+>濃度を変えるthapsigargin,BAPTA-AMやA23187および低Ca^<2+>培地処理細胞について,通常ERに存在するβ_Nが細胞膜に輸送されるかどうかを詳細に解析した。β_Nはいずれの場合も細胞膜に輸送されなかった。しかしながらA23187を処理した場合のみβ鎖の糖鎖プロセシングに異常が起こり,分子量の小さいβ鎖(約4.5万)が出現した。さらに,A23187を作用させるとβ・β_N複合体が形成されるという結果を得た。β・β_N複合体形成という立体構造の変化が糖鎖付加に影響を及ぼしている可能性があり,検討中である。 Na,K-ATPaseの細胞膜上における分布様式を,発生過程中の網膜色素上皮細胞,筋紡錘および嚢胞腎について検討をおこなった。 甲状腺ホルモン投与時のラット肝臓Na,K-ATPaseの動態を詳細に調べ,αおよびβ subunit mRNA量が3-4倍に,両subunitの酵素量および酵素活性が2倍に増加することを明らかにした。
|