研究概要 |
バゾプレッシン(AVP)分泌動態の暑熱順化による変化を検討するため,軽度の暑熱負荷を短時間加え,その間の体温調節反応,体液組成,循環機能の変化と血中AVP量との関係を暑熱順化訓練の前後で比較した。暑熱負荷実験として,人工気候室において室温を28℃で1時間(対照),続いて40℃で1時間(暑熱負荷),さらに28℃で1時間(回復)の順に変化させ,この間,鼓膜温,食道温,前腕発汗量,皮膚血流量などを連続記録し、また,対照ではその最後に,暑熱負荷期期では20分毎に、回復期では30分毎に採血と心拍数,血圧,体重の測定を行い,さらに各時期の最後に尿量を測定した。血液分析によりヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血漿浸透圧,血漿電解質,AVP量などを測定した。ヘモグロビン量,ヘマトクリット値から血漿量変化を算出した。実験第1日目に上記の暑熱負荷実験(pre-A)を実施した後,第2日目から9日間にわたって連日90分間鼓膜温が38℃を維持するように入浴による体加温を行って暑熱順化を招来させ,実験第11日目に再度上記暑熱負荷実験(post-A)を実施した。AVPは,pre-Apre-A,post-Aとも暑熱負荷の時期に増加し,回復期に減少したが,いずれもpost-Aで高値を示した。AVPは鼓膜温と正の相関がありその回帰直線はpost-Aの上方に位置した。ヘマトクリット値はpre-Aでは暑熱負荷の初期に低下しその後増加したが,post-Aでは低値を維持した。血漿量は暑熱負荷の初期を除いて低下したが低下の程度はpost-Aでは少なかった。preA,postAのそれぞれについてAVPは血漿量変化,ヘマトクリット変化や血漿浸透圧との相関を示さなかった。以上の結果は,【.encircled1.】AVPは体温依存性に分泌が増すこと,【.encircled2.】その依存度は暑熱順化により増すこと,【.encircled3.】暑熱負荷時に起こる血漿量減少(血液濃縮)は暑熱順化後AVP増量により軽減されることを示す。AVPは体温,体液,循環の各調節系の協関において重要な役割を果たす。
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