研究概要 |
脳内ヒスタミンの役割を考える上で従来から常に問題となってきたのは脳内におけるヒスタミン産生細胞が複数存在するということである.神経細胞,肥満細胞,血管内皮細胞,マイクログリアなど,これらの各細胞コンパートメントにおけるヒスタミンが,それぞれどのような動態を示すかは脳内ヒスタミンの病態生理学的役割を知る上でも極めて重要である.そこで,特にサトカインにより誘導されるヒスタミン合成能に注目し実験を行った.ラット胎児視床下部および大脳皮質を取り出し,一定期間培養した後さらにサイトカイン存在下に数時間培養しヒスタミン合成能の誘導を調べた.その結果,リポポリサッカリド存在下での培養により,ヒスチジン脱炭酸酵素が視床下部培養系では増加したが,大脳皮質培養系では全く増加しなかった.同様の変化がインターロイキン1βによっても観察された.このことは,サイトカインによるヒスチジン脱炭酸酵素活性の誘導は,当初考えていたグリア細胞系で起こる現象ではなく,むしろ視床下部結節乳頭核のヒスタミンニューロンでの変化であることが強く示唆された.そこで結節乳頭核にインターロイキン1βをマイクロインジェクションしたときの,視床下部前部からのヒスタミン遊離を全動物を用い微小脳透析法で検討したところ,用量依存的な遊離増加が観察された.われわれは既に末梢組織においてインターロイキン1によりマイクロファージにヒスチジン脱炭酸酵素活性が誘導されることを示しているが,脳内においては脳内のマイクロファージつまりマイクログリアではなく神経細胞そのものにおいてヒスタミン合成能の増加を来すことが明らかになった.このことにより,ヒスタミン神経系は中枢神経内において免疫系と神経系のクロストークに関与している伝達物質であることが明らかになり,アルツハイマー病などの病因に深く関与している可能性がますます濃厚となった.
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