研究概要 |
低酸素環境下(5% O2,95%N2)ならびに室内気でラットを30分間飼育した後、ラットを室内気に戻し、海馬切片を経時的、経日的に作成した。1)海馬切片をヘマトキシリン-エオジン染色したところ、低酸素負荷後21日目の海馬CA3、歯状回領域に神経細胞死を認めた。2)細胞骨格蛋白の1つであるNF200蛋白の抗体でイムノブロット分析した結果、1日目ですでに有意に減少し、7日目、21日目においても、この減少は認められた。3)海馬グルタミン酸受容体の変動を受容体結合実験で検討した結果、NMDA型受容体のみが減少し、KA型、AMPA型受容体は変動を受けないことが示唆された。4)C-fos蛋白の抗体を用いて、海馬切片を経時的、経日的に検討した結果、C-fosは低酸素負荷直後に歯状回領域で増加し、3時間後には元のレベルに戻った。しかし、1日後にふたたび増加し、この増加は7日目まで続いた。またCA3領域ではこのC-fosの変動は認められなかった。以上の結果、低酸素負荷により海馬神経細胞は細胞骨格蛋白が障害を受け、細胞死が発生する可能性が示唆された。またこの細胞死はNMDA型グルタミン酸受容体を介する可能性が示唆された。さらに、C-fosの海馬領域内での異なった変動は、神経細胞死とそれに体する保護作用の関係を示唆するものである。 今後、NMDA型受容体阻害薬、non-NMDA型受容体阻害薬前投与により、低酸素負荷による上記の海馬神経細胞死が阻止されるかどうか、また虚血モデルにより主として海馬CA1領域に発生する神経細胞死と低酸素モデルの神経細胞死発生機序の差異を検討することにより、脳神経細胞障害によって生じる疾患の予防と治療に役立つと思われる。
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