研究概要 |
グリシン開裂酵素系の構造と機能に関して以下の研究成果を得た。 1.ヒトT蛋白質cDNAをクローニングし、塩基配列を決定した。1209bpの翻訳領域を持ち、27残基のミトコンドリア延長ペプチドと375残基の成熟蛋白質をコードしていた。成熟蛋白質の一次構造をこれまでに明らかにした鶏,牛および大腸菌T蛋白質のそれと比較すると、動物酵素とのホモロジーは高い(ヒトと牛は90%,ヒトと鶏は68%)が、大腸菌とは28%と低く、4種に共通して保存された領域は限られていた。 2.ヒトT蛋白質の遺伝子をクローニングし遺伝子座を決定した(3p21.2-p21.1)。 3.T蛋白質活性欠損に起因する非ケトーシス型高グリシン血症の生存患者2例のT蛋白質遺伝子を分析し、Gly19,Gly241,Arg292がそれぞれArg,Asp,Hisに変異していることを明らかにした。Gly241は上記の4種で保存されているが、他の二ヶ所は大腸菌で異なっており、それらの変異が三次構造に影響している可能性が考えられる。 4.大腸菌のグリシン開裂酵素遺伝子オペロンの発現実験において、N末端16残基を欠いたT蛋白質が殆ど活性を示さないという結果を得たので,活性発現におけるN末端の役割を検討した。N末端に種々の長さの欠失を導入した大腸菌T蛋白質クローンを構築し、発現ベクターpET3aに挿入して大腸菌中で発現させた。そのうち7残基の欠失をもつ蛋白質(ETΔ7)をほぼ単一に精製し、CD spectra,kineticsなどについて全長T蛋白質(ET)と比較した。大腸菌中で発現されたT蛋白質の比活性は全長酵素に対し、4残基欠失で約20%、7残基以上の欠失で約5%であった。ET及びETΔ7は同じステップでほぼ単一に精製されたが、DEAE-Sepharoseからの溶出位置がわずかに異なった。両者のCD spectraに大きな差は見られなかったが、ETΔ7では還元H蛋白質に対する親和性の低下が顕著であった。これらの結果はT蛋白質N末端残基の欠失は全体の構造変化を来たすのではなく、基質、特にH蛋白質との相互作用に影響していることを示唆する。 現在、大腸菌T蛋白質とH蛋白質の架橋部位を同定中である。
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