研究概要 |
我々は従来より組職特異的転写の制御機構に関心を持ち,哺乳類の肝臓に選択的に発現するオルニチンサイクル酵素遺伝子の調節領域の解析を行ってきた。一見奇妙なことに,本サイクルの最後の酵素であるアルギナーゼのプロモーターは汎在性の因子であるCOUP-TFにより活性化される一方で,同じステロイドレセプタースーパーファミリーに属する肝臓選択的な転写因子であるHNF-4によっては抑制される。魅力的な仮説としては,HNF-4は発現しているがアルギナーゼの発現は見られない小腸や腎臓等の組職においてHNF-4はアルギナーゼ遺伝子の特異的抑制に関与する可能性が考えられる。今回,両因子に対するアルギナーゼ・プロモーター上の標的配列に関する解析を行った。同プロモーターのCOUP-TF応答領域の検索を培養肝癌細胞HepG2への遺伝子共導入系を用いて行ったところ,転写開始部位の上流-50bp前後に同領域が検出された。しかし,この領域にはCOUP-TFあるいはHNF-4の結合は認められなかった。これに対し,この部位にはC/EBPファミリーに属する因子の結合が見られ,同因子による転写活性化の応答領域もこの結合部位に一致した。一つの可能性としては,両因子はアルギナーゼ・プロモーター領域には直接には結合せず,C/EBP等の蛋白因子との相互作用を通じて同プロモーターを制御するということが考えられるが,今後他の可能性も含めさらに検討が必要である。
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