研究概要 |
【目的】薬剤耐性悪性腫瘍の一部には細胞膜にP-Glycoprotein(以下P-Gp)が出現する.これはMultidrug Resistance Gene1(以下MDR1)遺伝子産物である約170kDAの膜蛋白質で,これは遺伝子増幅ではなく転写の亢進によることが知られている.リンパ節病変とMDR1-mRNA量を比較検討することを目的とした.【対象と方法】-80℃に凍結保存したリンパ節生検24例(瀰漫性大細胞型悪性リンパ腫12例,反応性リンパ節病変12例)から抽出したmRNAを用いた.MDR1-mRNAの有無はRT-PCR法によりMDR1cDNAの3060と3653塩基間を増幅し電気泳動後検索した.MDR1-mRNAのRT-PCR法による半定量はサンプルcDNAに種々の既知量の対照cDNAを加え同一試験管内で同一primerを用いPCRによりMDR1cDNAの3649と3750塩基間を増幅し電気泳動後バンドを比較した.対照cDNAとしてMDR1cDNAの3691番塩基のStyIサイトに10塩基対を挿入したものを用いた.【結果】1.悪性リンパ腫5例,反応性リンパ節病変9例にMDR1-mRNAを認めた.2.半定量的PCR法により悪性リンパ腫1例,リンパ濾胞過形成2例,sarcoidosis3例に対照副腎の1/6乃至1/1.3前後に相当する量のmRNA増加を認めた.3.抗P-Gp抗体染色では,リンパ節胚中心の間質,傍皮質の血管に微弱陽性所見を認めた.in situ hybridizationは有意義な結果がこれまでに得られなかった.【考察】MDR1-mRNAの半定量により未治療悪性リンパ腫や反応性リンパ節病変の一部の症例で発現しているMDR1-mRNAが決して微量ではないことが分かり,P-Gpが単に制がん剤に誘導される薬剤排出装置に留まらず,細胞の何らかの生理学的な機能と関連する物質である可能性が示唆された.
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