癌抑制遺伝子p53は17番染色体の短腕17p13.1に位置しており、その点突然変異とallelic lossによって機能が障害されることが知られている。本研究ではジゴキシゲニンで標識した17p13.1に特異的なコスミドプローブとビオチンで標識した17番染色体のcentomericプローブを用いてdual-color in situ hybridizationを行い、個々の胃癌細胞におけるp53遺伝子のコピー数を知るとともに、その相対的増減を観察した。またfluoresence in situ hybridizationの結果はSouthern blot法で検出した17p13.3のloss of heterozygosity(LOH)の有無、及びp53蛋白に対する抗体(RSP53)を使って免疫組織化学的に検出したp53蛋白の異常核内蓄積の有無と比較検討した。 各症例で150個以上の胃癌細胞を観察し60%以上の癌細胞でp53遺伝子のシグナルがcentromereのシグナルより少ない場合を欠失(+)とし、それ以外の場合を欠失(-)とした。尚、前者のシグナルが後者のシグナルより多い症例は認められなかった。 検索した42症例中、欠失を認めたものは15例であり、scirrhous carcinomaの1例を除いて全例にLOHを認めた。これらの症例では17p13.1の欠失によりallelic lossがおこっていると考えられた。欠失(-)であった27例中10例はdisomyでかつLOH(+)であり、17p13.3を含み17p13.1よりtelomere側のdeletionがおこっている可能性が示唆された。また11例はLOH、p53の核内蓄積いずれも認められず、p53遺伝子の異常は確認できなかった。残る4例ではLOH(-)にもかかわらずp53蛋白の異常核内蓄積が顕著に認められ、点突然変異による異常p53蛋白によるnegative dominantの機構が働いている可能性が強く示唆された。
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