研究概要 |
甲状腺疾患のファイルから232例(腫瘍170例を含む)の症例を選出し,核甲状腺疾患における増殖能を免疫組織化学的に検討した.一次抗体には増殖細胞核中に広く存在するKi-67抗原を認識するモノクローナル抗体MIB-1を使用した.その結果,甲状腺分化癌(乳頭癌,濾胞癌)の増殖能(labeling index:2.0%)は他の臓器の高分化腺癌と比べて著しく低く,およそ1/30程度であった.一方,甲状腺未分化癌は高い増殖能を示した(labeling index:32.67%).濾胞腺腫や濾胞癌の増殖能は組織像により異なり,濾胞構造を明瞭につくる部位では増殖能は低く,充実性の構築を示す部位では高い増殖能を示した.また予後に関係する浸潤の程度と増殖能との関係をみると,広範囲浸潤型では局所微少浸潤型の濾胞癌に比較して有意な高値を示した.(Hum Pathol 26,139-146,1995) 癌遺伝子の異常の検討については現在もなお検討中である。癌遺伝子としてK,H,Nの3種のras遺伝子につき,それぞれ2ヶ所,計6ヶ所のpoint mutation hot spotを挟むプライマーを作製し,ホルマリン固定パラフィン切片から選択的に組織DNAを採取する目的で,microdisection-PCR法を行った.さらにSSCP法およびDirect sequensing法で採取したDNAの点突然変異の有無と塩基配列を検討した.現在までの所,甲状腺乳頭癌でのras遺伝子の点突然変異は少ない(10%以下).今後はras遺伝子の点突然変異がより高頻度に予想される濾胞性腫瘍において,腺腫から癌へのプログレッションおよび分化癌から低分化,未分化癌へのプログレッションについて検証していく。また現在南米パラグアイの甲状腺癌材料を収集しており,低ヨード摂取地域(パラグアイ)と高ヨード摂取地域(日本)における甲状腺癌でrasをはじめとする癌遺伝子異常の違いを同様に検索していく.
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