研究概要 |
いくつかのヒト染色体において数100個のDNAマーカーを配置した細胞遺伝学的地図が作製され、またヒトゲノムの90%をカバーするYACコンティグが完成するに至っている。ヒトゲノム解析の目標であるその全構造,全塩基配列の決定,さらに生命現象(特に疾病)に関わる重要な遺伝子の単離,同定に向けてのより具体的な情報と材料が提供されるようになった。このことから、染色体マッピング技術の一つであるFISH法も,従来の染色体バンドに基づいた3〜4メガベース・レベルの精度から数10〜数100キロベース・レベルの解像度を備え,近接するクローンの配列順序や物理距離そのものの推定が行えるゲノム解析技術としての改良が要求される。以上より今回の研究では、染色体形態を保持した超伸展prophase染色体標本の作製技術の確立と,これをマルチカラーFISH法に導入することで,セントロメア,テロメアの形態的識別が可能な新たな近接クローンのオーダリング手法の開発を目的に以下を検討した。まず,従来のチミジン同調/BrdUリリース法によるリンパ球培養系でトポイソメラーゼII阻害薬(ICRF154,ICRF193)を添加し,効率よくprophase染色体を収穫し,その超伸展標本を作製するための至適投与濃度,作用時間,低調処理,染色体展開条件などの検討を行った。次いで,ヒト第10番染色体長腕q11.2の360kbの領域で,バイディレクシヨナル・コスミッドウオーキングで得られた17個のオーバーラッピングコスミッドクローンの中から,既知の物理距離にあるペア・プローブでマルチカラーFISHを行い,prophase染色体長軸にそってシグナルの配列とオリエンテーション決定の可否を検討した。これらの結果,チミジン同調/BrdUリリース法によるPHA刺激リンパ球培養系で,細胞低調処理の1時間前に,ICRF154(25muM)を作用させることが,通常のPHA刺激リンパ球培養で得られると同定度に高い分裂指数で,prophase染色体が得られることを明らかにした。また,伸展した染色体標本を作製するには0.5M KC1溶液で低調処理を行い,さらに染色体伸展も火焔固定法で行うべきであることを明らかにした。このようにして作製した染色体標本を試料に,300kb,175kb,100kb,90kb,80kb,50kbの物理距離にある10q11.2領域のプローブ・ペアでマルチカラーFISHを行い,prophase染色体長軸にそったシグナルの配列とオリエンテーション決定は,同領域において50kbに近接するクローンまで可能であることを明らかにした。 以上,今回の研究により,100kb内外から染色体レベルの物理的距離にあるクローンの配列順序とそのオリエンテーション決定を可能とする高解像FISH法のprophase FISH ordering systemを確立した。
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