研究概要 |
ウエステルマン肺吸虫の材料は、2倍体は大分、兵庫、三重、千葉の4地域から、3倍体は対馬、天草、屋久島の3地域からそれぞれメタセルカリアの感染したサワガニやモクズガニを採集し、犬及び猫に感染させ150日前後に成熟成虫を回収した。まず制限酵素切断パターンの解析を行なった。回収した成虫は一匹ごとにリン酸緩衝液にてホモジナイズしTamura & Aotsuka(1988)の方法にしたがってミトコンドリアDNAを分離した。分離されたミトコンドリアDNAは、エチジウムブロマイド染色(アガロースゲル電気泳動)や銀染色(アクリルアミドゲル電気泳動)で識別するのに十分に精製されていた。今回用いた制限酵素は6塩基対cutterではAccI,ApaI,BgIII,EcoRV,HincII,PstI,pvuII,SacI,SmaI,SphI,XbaIの11種類、4塩基対ではHaeIII,HinfI,MspI.RsaIの4種類である。サザーンブロッティングハイブリダイゼーションではdigoxigeninでラベルされたUTPの取り込みを利用した方法を用いてプローブを作成した。その結果、多型現象は6base cutterではほとんど認められなかったが4base cutterでは集団内外に観察された。しかしその程度はかなり低いものであった。3つの制限酵素(PstI,HaeIII,RsaI)の切断パターンにおいて、2倍体と3倍体が異なることを見い出した。特にPstIでは、どの2倍体も唯一のcutting site(一本のバンド)を有するのに対して3倍体はどの個体も常に2箇所のcutting site(2本のバンド)を持つことが分かった。4base cutter のHaeIIIとRsaIでは、多数のバンドが得られたが、その中の一部のバンドが倍数性に特有なパターンを示し、両者を分けることができた。一方ミトコンドリアDNAのチトクロームcオキシダーゼサブユニットI(COI)の一部の領域をPCR法を用いて増幅しpGEMベクターにクローニングした。これをABIのシーケンサー373A型により塩基配列を決定し比較したところ、この領域では違いは認められなかった。以上の結果より、日本産ウエステルマン肺吸虫の3倍体は日本産の2倍体とはミトコンドリアDNAの制限酵素切断パターンのレベルでも異なっていることが分かり我々の雑種起源説を支持する結論に達した。
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