研究概要 |
本研究では,RFLPsやVNTRを使った従来のDNAマーカーに対し,ヒトの中で後天的に再構築されかつ多型を示すようなDNAマーカーを見いだすことを主目的とした.また,ヒトにおけるこのDNAマーカーの生成機序や,親子および一卵性双生児における個人識別での有用性を明らかにすることを試みた.平成5年度では,免疫グロブリン遺伝子のV,DおよびJ領域にまたがるcomplementarity-determining regions 3(CDR3領域)を後天的に再構築されるDNAマーカーと考えたが,免疫グロブリン遺伝子を発現しているB細胞の寿命のため,この遺伝子を後天的DNAマーカーとすることはできなかった.平成6年度では,ヒトが獲得するDNAマーカーとして、ヒトに不顕性感染するEBウイルス遺伝子を考えた.ヒトの末梢血DNA98例からBamW領域のプライマーを用いてPCR法を行いEBウイルスDNAを検出したところ,90例(92%)にEBウイルス遺伝子を証明することができた。このように,EBウイルス遺伝子をターゲットにすることにより,ヒトが後天的に獲得し,しかもヒトDNAと区別可能なDNAが存在することを明らかにできた.平成7年度では,ヒトの末梢血DNAから,ウイスル遺伝子内の数種の反復配列構造をそれぞれsemi-nested PCR法により増幅し,サザンブロット法を使うことによって,これらの部位がEBウイルスの不顕性感染中に変異を起こすかどうか検討した.この結果,選択した5種の反復配列領域のうち2つにおいて,EBウイルスの長期感染中にウイルス遺伝子の反復配列領域が変異を起こしていることが明らかになった.この変異のパターンは,各個人によって異なっていたため,EBウイルスの反復配列領域を後天的DNAマーカーとして考えることができるものと思われた.しかし,同一人において,不顕性感染しているEBウイルスは単一のstrainなのかどうか,あるいはヒトの一生を通じて常に同じstrainのウイルスを持ち続けているのか,そしてまた,そのウイルスはヒトの一生を通じてマーカーとなるような不変な部分をもちうるのかなど不明な点もあり,これらは今後の検討課題である.
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