研究概要 |
筋肉組織内のATP量の減少が死後硬直の発現に深く関わっていることは明らかであり,これを用いて死後経過時間の推定を行うことが可能であると考えられてきたが,従来の生化学的手法では,正確な分析が困難なため,今日まで実用化に至っていない。これに対し,^<31>P-MRS法は,不均一な試料中のATP,無機リン(Pi),クレアチンリン酸(PCr)量を容易に無侵襲かつ連続的に分析できるすぐれた方法である。本法の死後経過時間の推定手段としての実用性を検討するために,頸部圧迫・酸素欠乏・溺水・COガス暴露・薬物急性投与(エタノール・コカイン・臭化パンクロニウム・塩化カリウム・メタンフェタミン)で屠殺したラットの後肢(大腿部骨格筋)について,死後4時間までin vivo^<31>P-MRS測定を行った。得られたスペクトルの各ピーク面積より組織内のATP,Pi,PCr量を求め,また,Piの化学シフト値より組織内のpH値を算出した。 各分析値と死後経過時間の相関係数を求めたところ,いずれの分析値についても屠殺条件に関係なく高い相関関係が認められた。PCrは硬直発現前まで,ATPは発現開始後比較的早期まで高い相関関係を示したが,Piは,硬直発生以降のデータで,高い相関関係が認められた。pH値は測定したすべてのデータについて極めて高い相関性を示した。以上の結果をふまえ,個体ごとに,各分析値から死後経過時間を推定する一次式を求めたところ,すべてについて有意かつ適合度の高い回帰関数を得ることができた。各回帰式の係数項と定数項について,屠殺条件による影響を検討したところ,pH値はほぼ一定の値を示し,屠殺条件に関係なく適合度の高い回帰関係を求め得た。ATP・PCrでは,心停止直前の骨格筋の運動量・痙攣発作の有無などの影響と思われる値のばらつきがあった。 以上3年間の研究成果を総括し,今年中に誌上報告する予定である。
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