研究概要 |
レチノイドは抗発癌プロモーターとして作用する。我々は、肝癌のレチノイドによる発癌抑制を目標として従来より研究を行い、臨床的有用性を確認するに至った。(Internat'l Hepatol Commun 3:S4,1995)。このようなレチノイドの作用機序の根元的な解明は、肝癌に限らす全ての癌種の抑制を計る上で、不可欠の作業である。 我々は、実験肝癌と肝癌細胞株を用いて、レチノイドの発癌抑制機序を研究し、以下の2項目を解明し得た。1つは分化誘導作用であり、これはレチノイドとレチノイドX受容体との結合を起点とする、一連の遺伝子カスケードを介するものであった(Mol Carcinogenesis 10:151-158,1994)。他方は、アポトーシスの惹起であった。この作用は、癌細胞の増殖を維持するtransforming growth factor-α(変異性成長因子α、TGFα)のループ(循環)を、レチノイドが断ち切ることによって誘導された(Biochem Biophys Res Comm 207:382-388,1995). これらの作用機序のうち、前者は最初の遺伝子レベルでの現象まで解明し得たので、逆にそのような現象を惹起する新規レチノイドの開発という方向へ、研究を発展させることが出来た。すなわち、レチノイドX受容体との結合親和性を指標として、新規レチノイドの分子デザインを行い、少なくとも3種類の有望な化学構造を発見した(Biochem Biophys Res Commun 209:66-72,1995)。 これらの研究成果は、広範な発癌抑制ならびにレチノイドの開発の両面に、大きな進歩をもたらしたものと考える。
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