目的)C型肝炎ウイルス(HCV)感染における発癌機構、特にHCV自身が発癌性を有するのか否かは不明である。著者らは、肝細胞癌症例の肝組織(癌部、非癌部)において(-)鎖HCV-RNAを検索し、癌部において、非癌部と等量のHCV-RNAを認めた。そこで癌部より抽出したHCV-RNAの性状(genotype及びRNA polymeraseをコードすると思われるNS5部の塩基配列)を決定し、非癌部のHCV-RNAと比較し、HCV-RNA自身が発癌と関連しているか否かを検討した。方法)対象はHCV陽性肝細胞癌症例5例の癌部及び非癌部である。対照として、C型慢性肝炎6例において斑紋部を狙撃生検し、非斑紋部と比較検討した。肝組織内HCV-RNAの性状の検索として、(1)腹腔鏡、手術あるいは剖検により得られた凍結肝組織の癌部及び非癌部よりRNAを抽出し、(2)HCV-RNAのウイルス量を、RT-PCRを用いた半定量法で測定した。(3)HCV-RNAのgenotypeを決定した(岡本の方法)。(4)HCV-RNA(NS5部 nt 7966-8481)の塩基配列をPCR後、direct sequencing法で決定した。成績)対象の4例において、HCV genotypeは、II型3例、III型1例であり、血中、癌部、非癌部間で同一であった。HCVの塩基配列を検討した1例において、癌部、非癌部間で1カ所のみ塩基置換を認めた。対照群においては、肝組織中HCV-RNA量は、(+)鎖は5例、(-)鎖は2例において、斑紋部で非斑紋部に比べ減少していた(1/10-1/1000)。しかし、両部から得られたHCVの塩基配列は差を認めなかった。結論)肝癌部と非癌部のC型肝炎ウイルスは、その性状に差を認めず、肝癌部に存在するHCV自身に発癌性は乏しいと思われた。
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