研究概要 |
ウシパピローマウイルス(BPV)由来ベクターは,その受容細胞(主として齧歯類)においては染色体外で複製増殖しコピー数が多いことが特徴であるが,これまでヒト細胞に用いることは困難と考えられてきた.我々は既にヒト肝癌細胞株(Mahlavu)にBPVベクターを導入したところ,高コピー数の安定した発現が得られることを明らかにした(肝臓,33;600,1992).このことが他の腫瘍細胞に一般化されるかどうかをヒト子宮頚癌細胞(HeLa)とヒト大腸癌細胞(M7609)に同ベクターを導入し検討したところ同様の結果が得られ、さらにin vivoにおいても一回の皮下腫瘍に対する注射のみで少なくとも3週間までは同腫瘍部でのCATの発現が可能であることが明かとなった.一方,悪性腫瘍に目的遺伝子を特異的に導入する方法としてわれわれは,増殖の盛んな腫瘍細胞に存在するtransferrin receptor(Tf-R)を利用する方法を開発した(N Y Acad Sci, 336,1994).すなわち,Tf-RのligandであるTfとvector DNAをstreptoavidin-biotinを介して架橋させ,この複合体をTf-Rを介して導入するシステムである.本法によりβ-gal遺伝子を有するベクター(BAG)をヒト肝芽腫細胞(HepG2)とM7609に導入したところ,それぞれ10,15%の導入効率であり,lysosomal inhibitorであるchloroquine(CQ)の存在の有無にかかわらず同程度の発現効率が得られた.Pulse chase studyの結果,Tf-BAGの30%はlysosomeで分解され,残り70%の全部あるいは一部が核に移行していることが想定された.架橋剤としてpolylysineを用いるCottenらの方法が遺伝子の発現に細胞傷害性の強いCQが必要なのに比べ本法は不要なため,よりin vivoに用い易いと考えられた.今後,Tf-BPVベクター複合体を用いて肝癌に対するin vivo gene deliveryを予定している.
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