研究概要 |
肝細胞の癌化に伴う肝細胞中間径フィラメントの構成蛋白であるサイトケラチンの免疫組織化学的変化の原因を蛋白レベルで明らかにすることとし、主として二次元電気泳動で検討した。対象は肝硬変を伴う肝細胞癌組織で、組織を溶解し、癌部、非癌部のサンプルを、二次元電気泳動し、癌部と非癌部のサイトケラチンの性状の変化を比較検討した。 免疫蛍光法、免疫電顕では癌部と非癌部でその染色性に明らかな差があり、癌部では染色性の顕明な低下がみられた。ウエスタンブロッティングによる検討では、Moll分類でのNo8,18,19のサイトケラチン共にいずれの組織においても検出されたが、No18に対応するスポットはNo8に比しよりbroadで、この現象は癌部、非癌部に共通していた。癌部において、3種のサイトケラチン間の染色性やスポットの大きさの比が非癌部と異なる症例がみられ、No19に対応するスポットが塩基側にやや大きくみられる例や、No18に対応するスポットが大きくみられる例があり、一定の傾向はみられなかった。また、非癌部に検出されない高分子量のサイトケラチンや低分子量のサイトケラチンが癌部に存在する例があった。 以上の成績から、従来我々が報告している、肝細胞癌の癌化に伴う1Fの免疫染色性の低下という現象は、サイトケラチンのphenotypid changeというよりも、むしろ細胞個々の中間径フィラメントの代謝過程やその関連蛋白の発現の変化を意味するものと推定された。今後は発癌過程におけるサイトケラチンのmRNAレベルの変化を分子生物学的に明らかにする所存である。
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