研究では、まず気管平滑筋張力の呼吸性変化を検討した。イヌによる動物実験では、気管平滑筋は横隔神経の呼吸性活動に同期して収縮するが、収縮の時相は呼息相であること、中枢の呼吸活動を持続的に増減させれば気管張力も増減すること、気管平滑筋の神経調節に平滑筋膜電位の変化が関与していること等を見いだした。ヒト気管の呼吸調節についても、CTを用いることによって、持続的な変化成分の非侵襲的検討を加えた。この結果、ヒトの気管は中枢活動変化、迷走神経反射ともに、動物と比べて調節の程度が弱いことが明らかとなった。次いで、気管支平滑筋の呼吸性調節を気管平滑筋との比較で検討した。このために、まず、気管支径を生体内で測定する装置を制作した、装置は20x5mmの薄ステンレス板2枚をV字型に接着し、板の歪を電気的に測定するもので、気管支鏡観察下にイヌの区域気管支に挿入したところ、呼吸を障害することなく気道径を連続的に測定できた。この装置を用いて、イヌの気管支の収縮と気管平滑筋の等尺性張力変化を比較すると、自発呼吸時に気管と気管支は横隔神経活動と同期して周期的に収縮するが、気管支は気管に先行して収縮し、また、中枢の呼吸活動増加時に気管支は周期的に収縮するが気管は持続収縮する傾向を示した。気管・気管支を支配する運動神経である迷走神経に電気刺激を加える実験によって、上記の気管と気管支収縮の差異は末梢神経と筋の特性によって一部が説明し得ることが判明した。このような気管と気管支の収縮動態の差異は、気管が胸郭外気道であるのに対して気管支が胸郭内気道であって、両者の呼吸における胸腔内圧変化を考慮すると、合目的な調節様式と考えられた。
|