研究概要 |
運動ニューロン疾患(MND)において,これまで,遅い軸索内輸送の障害が知られているが,報告者は,速い軸索内輸送障害を伴っていることを明らかにした。2つの方法を用いたが,1つは免疫組織化学によるMND患者脊髄の検討である。速い軸索内輸送のモーター蛋白質であるキネシンと細胞質ダイニンに対するモノクローナル抗体により,抗ニューロフィラメント抗体で同定されたスフェロイドが強く染色された。速い軸索内輸送障害の結果と考えられる。この過程で,,抗ウシ細胞質ダイニン中間鎖モノクローナル抗体が5個得られたが,哺乳類細胞質ダイニンに対するモノクローナル抗体としては,これがはじめてである。もう1つの方法は報告者が新たに関発した,凍結乾燥切片を用いた定量的イムノブロットである。これにより,MNDの脊髄の各部で,キネシンと細胞質ダイニンが,単位重量あたりでも,単位体積あたりでも減少しているのが見出された。本法により,凍結乾燥切片から前角などを正確に切りとり,体積を,一定の厚さであることから面積測定により求め,モル濃度の算出が可能となった。組織学的なレベルでの蛋白定量法として今後の応用も期待される。実験モデルを用いての速い軸索内輸送障害の解析を試た。ビデオコントラスト増強微分干渉顕微鏡による観察を確立したが,蛍光顕微鏡によるトレーサー解析は途上である。主な原因は一般細胞で十分な標識が,培養ニューロンには入り難いことによるもので,平成6年度に申請したマイクロインジェクターによりそれが達成されることが十分に期待される。
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