研究概要 |
アルツハイマー病,パーキンソン病などの原因不明の神経変性疾患の発症に際して,脳内の毛細血管などの微小血管,とくに血管内皮がどのような役割を有しているのか検討する目的で,凍結保存された患者剖検脳より脳内微小血管を単離し,その特性を検索した。微小血管分画は細動脈主体の分画と毛細血管分画に分けて比較した。まず脳循環調節や血液脳関門機能に重要であるβアドレナリン受容体・アデニレートシクラーゼ活性の変化を検討した。中枢神経系に異常を認めなかった対照脳と比較すると,アルツハイマー病脳では細動脈においてのみβ受容体数の減少が認められた。親和性は差がなかった。大脳皮質実質ホモゲネートの比較ではβ受容体数は変化しておらず,細動脈分画β受容体数の減少は血管特有の変化と考えられた。血管分画のアデニレートシクラーゼ活性は実質よりも低値であったが,アルツハイマー病と対照間に差はなかった。大脳皮質各部位による差は認められなかった。パーキンソン病脳から分離した細動脈,毛細血管におけるβ受容体数,親和性は対照の値と同程度であった。さらにアルツハイマー病脳内微小血管についてはアセチルコリンエステレース(AChE)活性とそのアイソザイムを測定した。脳実質のAChE活性は対照脳に比し,有意に低下するが,細動脈,毛細血管ではその比活性は有意に増加した。血管にみられるAChEはA型などの高分子量のものが中心であるが,アルツハイマー病血管ではこれら高分子量AChEも増加しているが,異常に重合したG型も含まれていることが示唆され,蛋白代謝が変化している可能性が想定された。これら脳内血管系の変化はある程度疾患特異性があり,神経変性における意義は依然不明であるが,その病態や症候と関連している可能性がある。
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