研究概要 |
慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の免疫学的発症機構の詳細を明かにする目的で検討を行なった.慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の14例において,末梢神経系のガングリオシドに対する抗体活性を,マイクロタイタ-プレートを用いた免疫酵素抗体法で測定した.その結果,6例で抗ガングリオシド抗体が陽性であった.そのうち,抗GM1抗体が6例,抗GDla抗体が1例,抗GD1b抗体が2例,抗GT1b抗体が2例で陽性であった.抗ガングリオシド抗体が陽性であった全例で抗GM1抗体が陽性であった.しかし,陽性となった抗ガングリオシド抗体の組合せは個々の症例で異なっていたことから,各症例の抗原決定部位は微妙に相違していることを示唆した.なお,その他のニューロパチーまたは運動ニューロン疾患においては抗ガングリオシド抗体の出現頻度は極めて低かった.このように,抗ガングリオシド抗体の出現に疾患特異性がみられたことから,抗ガングリオシド抗体が慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の病因・病態に深く関与していることを示唆した.次に,患者血清の培養神経系細胞に対する免疫反応性を検討する目的で,神経系細胞の培養を行なった.後根神経節細胞やシュワン細胞の培養は,幼若ラットの後根神経節を用いて,神経成長因子を添加した培地で得た.抗ガングリオシド抗体の培養神経系細胞に対する細胞障害活性は,後根神経節細胞およびシュワン細胞のそれぞれの培地に患者血清を添加し,一定期間培養後に生存細胞を色素排泄法で定量した.抗ガングリオシド抗体の髄鞘形成抑制活性と脱髄活性は,後根神経節細胞とシュワン細胞を混合培養し,髄鞘形成が行なわれる以前と髄鞘形成の完了した時点で患者血清を添加し,一定期間培養後に髄鞘形成抑制と脱髄の程度を光学顕微鏡的に検討した.抗ガングリオシド抗体の抗神経作用に関しては,さらに症例を追加し,また捕体依存性についても検討する必要があると考えられた.
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