研究概要 |
FAPは1957年ポルトガルで発見されて以来、本邦を含め諸外国より多数報告されていたが、その成因は長い間不明であった。申請者はFAPの生化学・分子生物学的研究において以下のことを明らかにしてきた。 (1)FAP患者の組織から直接アミロイド線維蛋白を単離・同定・構造解析する手法を開発し、異常トランスサイレチンがアミロイドの本態蛋白であることを明確にした。これがFAPにおけるアミロイド蛋白同定の世界最初の業績となった。 (2)異常トランスサイレチンのアミノ酸置換がMetであることに着目し、ブロムシアン分解により異常トランスサイレチンのみから得られる部分ペプチドに対する抗体を作成し、異常トランスサイレチンを特異的に検出できる独創的なラジオイムノアッセイ(RIA)を開発した。本法を用い、FAP患者や遺伝的保因者の血清中に異常トランスサイレチンが存在することを証明し、FAPの生化学的診断法を初めて確立するとともに、従来不可能であった本症の発症前診断を実現した。以上の業績がその後のDNA診断・分子生物学的研究の発展の確固たる基盤となったことは、多くの共同研究に示されている。 (3)申請者はまた、欧米14ケ国のFAP患者におけるアミロイド蛋白の構造解析を行ない、Val^<30>→Metに加えてCys^<10>→Gly,Val^<30>→Leu,Phe^<33>→Ile,Glu^<42>→Gly,Thr^<49>→Ala,Ser^<50>→Arg,Glu^<61>→Lys,Ser^<77>→Tyr,Ala^<97>→Glyのアミノ酸置換を持つ、計10種類の異常トランスサイレチンを発見し、これらの国々のFAPに対する遺伝子診断法を確立した。この発見は、トランスサイレチン分子上の種々のアミノ酸置換がFAPの原因になることを示している。 上記の研究により、申請者はFAPがトランスサイレチンの分子異常による遺伝性疾患であることを明快に示した。
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