研究概要 |
我々は神経疾患における抗リン脂質抗体の存在を検索する過程で,抗リン脂質抗体のELISA法による測定系を確立し,多数例の血清をスクリーンしてきた。そして,多発性硬化症35例を含めた多数例の神経疾患血清に抗リン脂質抗体陽性を見出した。多発性硬化症での陽性率はIgGクラス8%,IgMクラス41%であった。これは非常に高頻度であり,かつ経時的にみると多発性硬化症の急性増悪と密接に関連して消長していることが判明した。そして、これら多発性硬化症の抗リン脂質抗体は、当研究室で精製したヒトβ-2glycoprotein I(GP1)依存性であることが大多数の症例で証明された。小池らがSLE症例で証明したように,MS血清においても,抗リン脂質抗体がリン脂質ではなく、GP1が陰性に荷電したリン脂質の存在下で立体構造変化を起こし,そこで暴露された抗原を認識することが証明された。すなわち,リン脂質に反応する抗体は,リン脂質が全く存在しなくても,陰性に荷電したELISAプレートの使用によりGP1と反応することも確認された。また、精製抗体はDNA単鎖,2重鎖いずれかと交差反応を示すことが判明した。以上,多発性硬化症患者の抗リン脂質抗体は,基本的にSLEに見出される抗リン脂質抗体とほぼ同一の抗原スペクトラムを有していることが判明した。抗リン脂質抗体という液性免疫の観点から本症を究明することは,細胞性免疫からのみでは不十分な多発性硬化症の病因解明の糸口になると思われる。多発性硬化症患者の抗リン脂質抗体の性格はSLEとかなり類似したものと考えられる。SLEでは時にMSと類似した神経症状をきたすことが知られている。この事実は,多発性硬化症でも抗リン脂質抗体が中枢病変を惹起する何らかの役割を担っていることが推定される。
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