研究概要 |
1.パーキンソン病誘起物質である1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetra-hydropyridine(MPTP)を,われわれの開発した方法,すなわち,L字型金属カニューレの先端をサルの一側尾状核または被殻内に留置し,MPTPを満たした浸透圧ポンプに接続する方法で2週間かけて直接注入し,片側パーキンソニズムを作製した.今回は昨年に続き,パーキンソン病で線条体内ドパミン低下の最も著明な部位である被殻の尾側に塩酸MPTPを0.4,1,4mgと量を変えて注入し,尾状核は比較的無傷の状態で,片側パーキンソニズムすなわち反対側上下肢の寡動(hypokinesia)と屈曲位の程度を観察した.結果は“dose-dependent"であった.筋固縮は4mgの注入によって初めて明らかとなった.アポモルフィン0.4mg筋注によるMPTP注入側と反対方向への回転運動はやはり“dose-dependent"に認められた.この事実は,片側パーキンソニズムの線条体内topographyの存在とともに,被殻の尾側にMPTPを注入することがパーキンソン病のモデルとして臨床に最も近いことを示している. 2.大脳基底核内の諸構造すなわち視床下核,淡蒼球外節・内節のニューロン活動を選択的にブロックするため,イボテン酸を当該部位に微量注入する装置を,Hamada & DeLong(1992)の方法に準じて作製した.被殻の尾側にMPTPを注入されすでに片側パーキンソニズムを呈しているサルの同側淡蒼球内節内にイボテン酸(10mug)を注入した.その結果,片側パーキンソニズムはほぼ消失した.病理組織化学的に検討中である. 3.上記1と2の方法を組み合わせて,大脳基底核の機能局在の病態生理学的研究を続行中である. 4.今回は,MPTP片側パーキンソニズムサルの脳標本にて鉄染色を行ない,注入側の黒質に鉄沈着の増加を見出した.この事実は,パーキンソン病黒質の鉄沈着の増加も結果産物であることを示唆している.
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