研究概要 |
老齢心は虚血に陥り易く、また、虚血に陥ると回復しがたい。これらの現象は急性心筋虚血の際の再灌流療法にても観察される。老齢者では、再灌流による心筋保護効果が小さいとの報告がある。心筋細胞はHeat Shock Proteinを発現して種々のStressよる障害を防御する機構を有する。老齢心では、この防御機構が減弱しているのかもしれないとの仮説を検証した。方法2、18カ月齢の2群のラットを用いた。麻酔開胸し、左冠動脈枝にナイロン糸をかけ、小さいチューブを用い、Snareを作製した。糸の断端を胸腔外に出し閉胸した。手術3日後、開胸せずにSnareにより、10あるいは20分の虚血刺激を与えた。刺激後、1,2,4,8,12時間にラットを堵殺し、心臓を摘出した。虚血、非虚血部位を識別するために、Snareの糸を結さつし、上行大動脈よりインドシアニングリーンを注入した。それぞれの部位より組織標本を得、Total RNAを摘出した。Northern Blot解析を行い、Heat Shock Protein(HSP)70,Heat Shock Cognate Protein(HSC)70のmRNAを発現を検討した。また、Gene発現を定量化するため、Dot Blot解析をした。虚血刺激24時間後に、組織標本を得、Heat Shock Proteinを組織免疫抗体法を用いて検出した。結果 2カ月齢ラットでは、HSP70 mRNAは虚血刺激2時間後に最大値をとり、8時間後には刺激前値に戻る変化を示した。HSC70 mRNAは4時間後に最大値となり、8時間後には刺激前値に戻らなかった。18カ月齢ラットでは、HSP mRNAは2時間でわずかに発現されるのみで、2カ月齢ラットの1/7であった。しかし、20分虚血刺激後には、18カ月齢ラットでも2カ月のものに近いmRNAの発現がみられ、24時間後には、両群のラットでHSP70の蛋白の発現が検出された。結論 老齢心では虚血によるHSP70,HSC70 mRNA発現は減弱している。しかし、より強い虚血では、老齢心においても若年心と同様に発現し、蛋白発現を生ずる。老齢心では、Heat Shock Protein発現による防御機構が減弱しているが、それは、Gene発現のための刺激に対する域値の上昇によることが示唆される。
|