研究概要 |
現在,心筋の虚血-再灌流障害の成因として,いくつかの機序が考えられているが,その一つに活性酸素ラジカルがある。本研究の目的は,1.活性酸素による心筋細胞の障害機序を,^<31>P-NMR法による高エネルギーリン酸代謝と^<19>F-NMR法による細胞内Ca^<2+>代謝の面から解明すること,2.糖尿病心の活性酸素への反応性についても検討することである。過酸化水素(H_2O_2)を短時間(8分間)灌流心に投与すると,早期の一過性の左室発生圧の低下[early component(EC)]と,投与中止後に進展する左室拡張末期圧の上昇[late component(LC)]とが,二相性の心機能障害として生じる。^<31>P-NMR法により,ECは解糖系阻害の程度に関連し,LCは総ATP量の低下に関連していた。また,^<19>F-NMR法により,細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]_1)は,H_2O_2投与前の315±23nMから投与後701±58nMに上昇し,その経過はLCに一致していた。これらのことは,心筋の虚血-再灌流時に産生される活性酸素により,解糖系阻害によるエネルギー代謝異常と細胞内Ca^<2+> overloadが生じ,こうした変化が心機能障害と密接に関連していることを示している。その機序としては,活性酸素により生じた膜リン脂質のlipid peroxidationによる膜機能の障害,蛋白変性による酵素活性の低下が考えられる。近年,糖尿病心においては,虚血-再灌流障害に対して抵抗性があるとの報告があり,我々はstreptozotocinにより発症させた糖尿病心およびinsulin治療をした糖尿病心の活性酸素への反応性についても同様の方法で検討した。糖尿病心は外因性のH_2O_2に対し耐性を持ち,インスリン治療を行うとこの耐性は減弱した。耐性獲得の機序として,解糖系阻害の軽減および[Ca^<2+>]_1上昇の抑制が示唆された。このことは,糖尿病心の虚血-再灌流障害に対する抵抗性の少なくとも一部が,活性酸素に対する耐性に関連していることを示唆する。
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