研究概要 |
1.目的:病的ヒト心房筋静止膜電位の脱分極の機序を明らかにするために、まず当該標本の細胞内Naイオン活性(a^i_<Na>)を実測し、対でa^i_<Na>の膜電位による変動を検討する。 2.結果・経過・考察:開心術時に得たヒト右心耳より約1×0.6mm大の櫛状筋を標本とし、二連式Na^+選択性微小電極を用いa^i_<Na>と静止膜電位(Vm)を同時測定した。その結果、Vm=-44.1±5.0mV,a^i_<Na>=6.9±1.7mM(n=9)の値を得た。他種心房筋より得た生理的なこれらの値と比較すると、Vmは約1/2に著減しているものの、a^i_<Na>はほぼ生理的範囲に保持されていると判断される。しかし、ここに得たa^i_<Ka>(6.9mM)は、Vmが病的に脱分極しているために生じた2次的変化を示すもので、生理的な深いVmではa^i_<Ka>が増加している可能性が否めない。すなわち、本標本では静止膜のNa透過性(P_<Na>)が病的に亢進し、その結果膜が脱分極した可能性がある。そこで、当標本を蔗糖隔絶法による膜電位固定下、または過分極通電時におけるa^i_<Ka>の実測を試みた。その結果満足すべき膜電位制御は出来なかったが、Vmが約-60mVにおいてa^i_<Ka>は7.8mM,Vmが約-80mVではa^i_<Ka>は8.6mMと増加する傾向が認められた。膜電位に依存したa^i_<Ka>の変動に関する報告によれば、1mV'の脱分極に応じておよそa^i_<Na>は0.1mMの減少を来すと推定される。本標本の生理的静止電位を-80mVと仮定すれば、Vm=-80mVではa^i_<Ka>=6.9+0.1×36=10.5mMと概算され、ここに得た実測値と大きな矛盾はない。静止膜(-80mV)におけるa^i_<Ka>が8.6〜10.5mMに維持されているとすれば、これは生理的範囲とみなされ、P_<Na>が増加しているとは考え難い。我々は以前から当該標本脱分極の原因としてP_<Na>/P_K比(P_Kは膜のK透過性)の増大を指摘したが、もしP_<Na>が正常範囲にあるとすれば、P_Kの減少が主な原因と推定され得る。今後さらに正確な膜電位制御下にこの種の実験を行う予定である。
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