研究概要 |
ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生などの重要な機能を担う細胞内小器官の一つである。ミトコンドリア病はミトコンドリア酵素蛋白質の異常により,このミトコンドリア機能が障害されて,重篤な症状をきたす疾患である。本研究において,我々はまず複数のミトコンドリア酵素の活性が低下し,ミトコンドリア内へのミトコンドリア酵素蛋白質の輸送障害が推測されるミトコンドリア病患者由来の培養皮膚線維芽細胞において,ピルビン酸脱水素酵素蛋白質のミトコンドリア内への輸送課程が障害され,このためにミトコンドリア酵素の一つであるピルビン酸脱水素酵素複合体活性が低下していることを見い出した。この結果から,ミトコンドリア内へのミトコンドリア酵素の輸送障害がこれまで報告されていないミトコンドリア病の病因であることを明らかにした。今後は,本患児におけるミトコンドリア酵素蛋白質の輸送障害部位を分子生物学的に明らかにしていく予定である。また,我々はミトコンドリア病の病因の一つであるピルビン酸脱水素酵素欠損症女児患者において,E1α遺伝子にこれまで報告されていない18塩基対挿入の遺伝子変異を見い出すとともに,この変異遺伝子の発現が患者の組織によって異なっていることを明らかにした。この結果は,ピルビン酸脱水素酵素欠損症女児患者では,従来行われている酵素学的診断法だけでは診断不可能な症例のあり,このような症例を確実に診断するためには,遺伝子診断法の確立が必要であることを示唆していた。
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