研究概要 |
グリア細胞,とりわけアストログリアは成熟脳では損傷修復に役立つが,周産期に産生されるので新生児期にはまだ未熟な発達段階であり,そのような未熟なアストログリアが如何に新生児脳の修復に関わっているかは不明である。そこで本研究では周産期の脳障害の原因として重要な低酸素症のモデルマウスをもちいて、アストログリアの標識マーカーであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)とグルタミン合成酵素(GS)を免疫組織化学的に染色するとともに,低酸素症にそる脳損傷後のアストログリアの増殖動態をチミジン・オートラジオグラフィーとGFAPの二重染色によって検索し,新生児脳の損傷後の修復能力を検索した。 生後1日のJcl:ICRマウスに5%酸素95%窒素混合ガスを8時間負荷し,中等度の脳出血および脳虚血損傷を生じたマウスを負荷後1〜10日に屠殺し,その脳にGFAPあるいはGSに対する抗体を用いてPAP法により免疫組織化学染色を行い,海馬におけるGFAPあるいはGS陽性アストログリアの動態を究明した。正常同胞マウスではGFAP陽性細胞とGS陽性細胞の増加はおよそ一致しており,ともに正常に分化するアストログリアのマーカーになると考えられた。一方、出血群では,GS陽性細胞は分子層を中心に軽度の増加が認められたが,GFAP陽性細胞はGS陽性細胞と分布が異なって放線層を中心に増加し,さらに出血後4日目まで急速かつ著名に増加してその後は減少した。また次に行ったチミジン・オートラジオグラフィーとGFAPの二重染色では,チミジンでラベルされたGFAP陽性細胞は約0.5%に過ぎなかった。したがってこれらの結果から,傷害された新生児脳においてはGS陽性細胞とGFAP陽性細胞は性質を異にする2種類のグリア系細胞を表わし,GFAP陽性細胞は反応性に富んだ,おそらくグリオプラストであろうと思われた。さらにこれらの細胞の大部分は分裂増殖して生じたのではなく,損傷によってGFAPを発現するように変化したものと考えられた。
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