研究概要 |
研究者はポジトロンCTの方法で,薬物未投与の慢性期精神分裂病者の脳各部位を検索し,慢性期精神分裂病者では,人類で初めて出現してくる連合野に活性の低下が見られる事を認めた.また薬物未投与の急性期精神分裂病者の脳部位では視床,帯状回の脳血流量,脳酸素消費量の増加が見られることを見だしている. 精神分裂病者が示す精神症状との関連では,能動性の減退,環状鈍麻などの陰性症状を呈する慢性期精神分裂病者では,両側前頭葉の脳血流量,脳酸素消費量,グルタミン酸プールが減少していた.また妄想を示す満席期の精神分裂病者では右頭頂葉,または左側頭葉の脳血流量,脳酸素消費量,グルタミン酸プールが減少していた.一方,幻聴,興奮など陽性症状を示す急性期精神分裂病者では,症例によって脳の過活動部位は様々であるが,視床,帯状回と言った脳部位は,共通して脳血流量脳酸素消費量が増加していた. 一方1H-MRS (Magnetic Resonance Spectroscopy)を用い,薬物未投与の精神分裂病者の脳代謝についても研究を行なった.精神分裂病者では,NAA (N-acetylaspartate)が,前頭葉白質で男女共に低下(p<0.0001)している事を認めた.その減少の割合いは-22%であった.またcholineも前頭葉白質で男女共に減少(p<0<0.001)していた.その減少の割合いはNAAとほぼ同様-25%であった.NAAは人脳ではグルタミン酸,グルタミンに次いで多くあるアミノ酸であり,最近ミエリン生成に関係していると考えられている.Choloneのピークは,その真の構成物質はphasphatidylcholine,sphingomyelineと考えられ,膜構成成分である.NAAとcholineが精神分裂病者の前頭葉白質で相関(r=0.781,p<0.003)を持って減少する事実は,精神分裂病ではニューロンネットワークの障害が生じている事を示唆している.
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