研究概要 |
常染色体劣性遺伝形式をとる先天性原発性甲状腺機能低下症で、1)正常部位に甲状腺はあるが腫大はない、2)血中TSHの生物学的活性は正常かまたはTSH連続負荷に反応しない、3)甲状腺自己抗体は陰性、の条件を満たす家系をはTSH不応症と判定して、TSH受容体遺伝子の変異の有無を検討した。TSHの生物活性は患者血清からTSHを抽出し、ラットERTL-5細胞のcAMP産生量で判定、さらにTSH連続負荷試験は3〜5日連続TSH負荷後の^<131>I uptakeと甲状腺ホルモン値で判定した。患者末梢血リンパ球よりRNAを分離しRT-PCRを行い、TSH受容体cDNA断片を増幅後、直接シク-エンス法により全塩基配列を決定した。対象の4家系のうち、1家系でTSH連続負荷試験の基準を完全には満たさなかったため、最終的には残りの3家系について遺伝子解析を行ない、TSH受容体異常の有無を検討した。RT-PCRで得たTSH-RcDNA断片の大きさはアガロールゲル上すべて対照と等しく、大きな欠失や挿入、スプライシングの異常は認めなかった。さらに、直接シークエンス法による解析では3症例ともシグナルペプチドを含むTSH受容体遺伝子に変異は認めなかった(Thyroid,4,255-259,1994)。TSH不応症は現在までこの症例を含め8家系が報告されているにすぎない。TSH不応症におけるTSH受容体異常はおそらく稀であり、この3家系についてはTSH受容体遺伝子に異常はなく、プロモータ領域やポストレセプターの異常などが疑われた。
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