研究概要 |
平成4年度までに、本邦において発見された遺伝性侏儒症ラットの病因として、GH構造遺伝子の点突然変異に基づく完全GH単独欠損を明らかにし、その病態のひとつとして、視床下部GH分泌促進因子(GRF)ならびにソマトスタチン(SRIF)遺伝子発現異常を解明した。平成5年度では、正常SD系ラット受精卵の雄性前核にマウスmetallothionein(MT)遺伝子プロモーターにヒトGRF/GHミニ遺伝子を結合したfusion遺伝子を注入し、それぞれ20/4匹のtransgenic rats(Tg)のfounderを得た(G0)。これらTg雄ラットは生後4か月までは繁殖力を保持していたので、正常雌ラットと交配し継体飼育し、このうち導入遺伝子の高発現を示すラットの系統を得た。平成5年度末から平成6年度にかけて、遺伝的に安定したG2以降のhGH/hGRF Tgラットを用いて血中ホルン分泌動態を明らかにした(平成5年度成長科学協会研究年報17:411-420,1993、Katakami et al Endocrinology 132:A1456,1993、日本内分泌学会雑誌70:826,1994)。hGRF-Tgラットにおいて、経時的にGH産生下垂体腺腫が形成され、雄ラットにおける脈動的な自然のGH分泌が障害されることを初めて明らかにした(Katakami et al Endocrinology 134:A666,1994、第4回日本内分泌学会生涯教育集会資料集11-23、1994)。 平成6年度では、遺伝性侏儒症ラットにヒトGH/GRF遺伝子導入治療を試み、これらの遺伝子が組み込まれたfounderラットの作成にも成功した(hGRF-Tg dwarf雌1匹雄2匹、hGH-Tg dwarf雌1匹)。しかし、G0のhGRF-Tg dwarfラットから得られたG1のdwarfラットにおいてはhGRFの遺伝子発現は見られなかった。一方、hGH-Tg dwarfラットは、正常ラットと比較して、巨人症を示し、いわゆる、遺伝子治療に成功した。しかし、同ラットは不妊であった。その結果、ヒトGH/hGRF遺伝子の高発現を示す同症ラットの子孫は得られなっかった。そこで、平成6年度末は、予定を変更し、hGRF-Tg正常ラットと遺伝性侏儒症ラットの交配により、ヘテロのヒトGRF-Tg遺伝性侏儒症雄ラットをまず作出し、次に、遺伝性侏儒症の雌ラットとさらに交配を重ねて、hGRF-Tg遺伝性侏儒症ラットを得ることとした。また、hGH-Tg遺伝性侏儒症ラット作出は同様の理由により、困難が予想されるので、上記のhGRF-Tg遺伝性侏儒症ラットを得ることを優先するよう計画した。現在までにhGRF-Tg dwarfラットは雄4匹、雌3匹を得、さらに、飼育繁殖中である。
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