研究概要 |
I型糖尿病の膵島炎においては浸潤した免疫細胞がサイトカインを放出するだけでなく,膵β細胞自体もサイトカインを産生する可能性がある。実際,in vitroでIL-1により誘導される膵島細胞のTNF-αは生物活性を有しており,膵島細胞自体に作用しうると考えられる。IL-1αにより誘導されるマウス膵島細胞のTNF-α産生は,nicotinamideおよびhydrocortisoneにより抑制されたが,cyclosporinとFK506は抑制効果を示さず,TNF-α自体によるnegative feedbackも見られなかった。Northern blot法により,nicotinamideとhydrocortisoneはいずれもTNF-α mRNA発現を抑制することが示された。また,nicotinamideとhydrocortisoneは,IL-1αによる膵島細胞障害に対し抑制効果を示した。 私どもはTNF-αをIFN-γとともに培養膵島細胞に添加すると、inducible nitric oxide synthase(iNOS)遺伝子の転写を引き起こしてnitric oxide(NO)産生を亢進させることを見いだした。IFN-γ/TNF-αによるマウス膵島細胞のNO産生は、5-10mMのnicotinamideにより著明に抑制された。RT-PCR法による検討では,nicotinamideの抑制効果はiNOS mRNAのレベルで認められた。マウス膵島細胞にNO産生剤であるnitroprussideを添加すると細胞内NAD含量が約60%減少した。[^3H]-NADの不溶分画への取り込みにより測定したpoly(ADP-ribose)合成酵素活性は0.2mMのnitroprussideにより上昇を示した。nitroprussideによるpoly(ADP-ribose)合成とNAD含量の減少は3-aminobenzamideにより抑制された。 以上の検討により,サイトカインによる膵島細胞障害機序はpoly(ADP-ribose)合成に伴うNAD含量の減少など、streptozotocinやalloxanによる膵島細胞障害と共通した機序を有しており,nicotinamideはNO産生の抑制とpoly(ADP-ribose)合成抑制の少なくとも2つの作用点において膵島細胞障害を抑制することが示された。
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