研究概要 |
3人の腎腫瘍患者の摘出腎正常皮質部からジービング法にて単離糸球体を採取し3系統のヒト培養メサンギウム細胞(CHMC)を樹立した。このCHMCのFcα受容体(FcαR)遺伝子発現をRT-PCRとノーザン・ブロット(NB)にて検討した。1系統のCHMCのみにRT-PCRでFcαR遺伝子発現が同定された。しかし、NBでは同定できなかった。次に、CHMCにIL-1,IL-6,IL-8,TNF-α,PDGF,TGF-β,熱凝集lgAを12および24時間添加培養しRI-PCRおよびリボヌクレアーゼ・プロテクション・アッセ-法にてFcαR遺伝子の発現調節を検討した。IL-1,IL-6,TNF-α添加によりFcαR遺伝子発現のわずかな増加傾向かみられたが、有意なものではなく、用量および時間による変化も認めなかった。 FcαR細胞内ドメイン蛋白をGlitathione-S-Transferase(GST)融合蛋白として大腸菌で発現させグルタチオン・セファロース・カラムにて分離精製した。このリコンビナント蛋白を家兎に免疫し、FcαR細胞内ドメイン蛋白に対するポリクロナール抗体を作成した。この抗体とCHMC可溶化液の免疫沈降では、約60kDの沈降物を認めFcαR蛋白と考えられた。また、間接蛍光抗体法による腎生検組織の免疫染色を試みたが、明確な染色像は得られなかった。 RT-PCRにて増幅したCHMCのcDNAに、StyIe S ite(670番塩基)の静的点変異(C→T)を認めたため、lgA腎症患者(45名)および正常人(30名)におけるFcαRのStyIによるrestriction fragment length polymorphism(RFLP)を検討した。しかし、FcαRのStyIによるRFLPは認めなかった。 本研究により、CHMCにFcαRの遺伝子および蛋白の発現を同定した。CHMCのFcαR発現はわずかな不安定なものであり、サイトカインなどによる発現変化もほとんど認めなかった。以上より、メサンギウム細胞のFcαRはわずかな構成的な発現で、メサンギウムでのlgA免疫複合体沈着・異化における役割よりもlgA分子を介するメサンギウム細胞への情報伝達において重要な役割を果たしていると推測された。
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